コーヒー溺路線
「何をしようか。まだ昼にもなっていないからなあ」
マンションに到着し、車から降りて松太郎が呟いた。
後部座席から彩子の荷物を取り出し、松太郎はそのまま歩いてマンションの入り口へ向かった。
彩子も慌てて松太郎の後を追う。
「綺麗なマンションですね」
「そうかな?ありがとう」
松太郎が住むマンションは入り口の周りにところどころ植物が植えてある。
管理の行き届いた良い空間だ。
彩子は物珍しげにそれを見る。
「彩子、置いて行くよ」
「あっ。待って下さい」
エレベーターの扉はもう開いていて中から松太郎が彩子を呼ぶ。慌てて彩子は松太郎の側に駆け寄った。
「松太郎さんは何階ですか?」
「三階だよ」
どことなく彩子はそわそわとしている。
そんな落ち着きのない彩子を松太郎は苦笑しながら見つめていた。
「彩子」
松太郎はぽつりと呟いた。
彩子が不思議そうに顔を上げたのを見計らい、軽く唇に口付けた。
「松太郎さんっ」
「最近していなかったから」
「反則ですっ」
酷く狼狽する彩子にもう一度松太郎は口付けた。顔を紅潮させながら彩子は再び怒鳴ると外方を向いてしまった。
松太郎はまずい、機嫌を損ねたかと舌を出していた。