コーヒー溺路線
 

エレベーターは直ぐに三階へ到着した。
松太郎の部屋はエレベーターから一番遠い場所にある。角部屋なので他の部屋より少し広い。
 


 
「松太郎さん。少しとは言え普通に広いですよ」
 

 
「そうかな。突っ立っていないで入って」
 


 
ああ、そうかこの人はアメリカで暮らしていたのだと彩子は思った。アメリカの物は何でも大きいと聞く。
そして社長の息子であることも思い出された。
 

彩子はお邪魔しますと言いながらゆっくりと部屋に足を進めた。松太郎は彩子の荷物を持ったまま寝室へ行く。
 


 
「荷物はこの部屋に置いておくからね」
 

 
「あっ、ありがとう」
 

 
「一日中彩子と一緒か。嬉しいな」
 


 
さらりとそんなことを言ってしまう松太郎に彩子はたじろいだ。
松太郎はくすりと笑って彩子をリビングまで通し、ソファに座らせた。
 


 
「松太郎さん」
 

 
「なんだい」
 


 
松太郎がしきりに彩子に顔を近付けてくる。彩子は恥ずかしくてなかなか顔を上げられないでいた。
 


 
「なんだか意外です。もっと生活感のない部屋を想像していました」
 

 
「そうかなあ」
 


 
松太郎は不思議そうに目を瞬かせていた。
彩子はぐるりと部屋の中を見渡す。
 

松太郎の部屋の物は暖色で揃えられていた。カーテンもソファも淡い黄色や橙色だ。
そのせいで大きなテレビの銀色だけが妙に浮いている。
 

彩子は立ち上がりリビングの他に二つある部屋を覗き込んだ。
一つはリビングと同様の洋間で寝室だ。
もう一つの部屋は和室で本棚がずらりと並んでいた。しかしその本棚に並べられている本の数は少ない。松太郎はこれから増やしていくつもりである。
 


 
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