コーヒー溺路線
 

尽きることなく続く彩子からの質問に、松太郎は答えながら彩子を抱き締めていた。
彩子は時々恥ずかしそうに目を細めた。
 

そんなふうに過ごしたあとは昼食を取り、午後からはDVDを見た。
彩子はよく笑った。
そんな彩子を見て松太郎も笑った。
 


 
「ああ、面白かった」
 

 
「松太郎さん。そろそろ夕食の準備をしますね」
 

 
「ありがとう。何を作るんだい」
 

 
「女の手料理の王道、肉じゃがです」
 


 
彩子はゆっくりと立ち上がりキッチンへ向かった。調味料や鍋のある場所を松太郎から聞き、間もなく包丁のまな板を叩く音がし始めた。
 

次第に良い香りがリビングに漂ってくる。
松太郎はどうしようもなく幸せな気持ちになり、思わず顔が綻んだ。
 


 
「明日は松太郎さんが好きなグラタンを作りますね」
 


 
先程の好きな食べ物は何かと言う質問に松太郎は身を乗り出してグラタンだと答えた。
松太郎の眼がキラキラと輝くのを見て彩子はくすりと笑った。
その松太郎が余りにも菓子を目の前にした子どものようだったからだ。
 

明日グラタンが食べられると思った松太郎は、再び子どものように笑って頷いた。
 


 
「何か手伝おうか」
 


 
どうも落ち着かないらしい松太郎はリビングからキッチンへ移動し、彩子の背後をウロチョロとしている。
 


 
「ねえ、彩子。手伝うことはない?俺、何でも手伝うよ、彩子、彩子」
 


 
彩子、彩子と興奮したように何度も松太郎が呼ぶ。それもなんだか子どものようで彩子はおかしくなった。
 

尾を振る犬のように忙しなく彩子の背後を動き回る松太郎に、彩子は皿を出すよう促した。
松太郎は仕事を与えられ、嬉しそうに皿を並べていた。
 


 
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