コーヒー溺路線
 

「できましたよ」
 


 
彩子が肉じゃがとポテトサラダを皿に盛り、松太郎は炊きたての米を茶碗に盛った。
早く早くと松太郎に急かされて、彩子は慌ててリビングへ行った。
 

それからいつものように合掌し、声を揃えて頭を下げた。
 


 
「頂きます」
 


 
彩子は松太郎が肉じゃがを口にするのをじとりと見つめていた。
味が付いているか不安なようだ。
 


 
「どうですか?」
 

 
「……彩子は料理が上手だな」
 


 
松太郎は満面の笑みで言った。
彩子は安堵の溜め息を吐くと、ようやく食べ始めた。
 


 
「美味しいなら良かったです」
 

 
「彩子の作ったものなら何でも食べるよ」
 

 
「嬉しい」
 


 
照れくさそうに彩子は笑った。
松太郎は黙々と肉じゃがを食べる。
 

こんな静けささえも心地良いと感じることが幸せだと、彩子は改めて思った。
 


 
「松太郎さん」
 


 
彩子がぽつりと呟いた。
それは先程の温かい雰囲気には似合わない、哀愁を帯びた声だった。
 

彩子のただならぬ表情に松太郎も背筋を伸ばした。彩子は何を言おうとしているのか。不安が募る。
 


 
「こうして松太郎さんと過ごすのも、松太郎さんが完全な婚約をするまでだと思うことにしました」
 

 
「……彩子?」
 


 
まずい。松太郎は思った。
彩子は俯いてしまい、松太郎にその表情は読み取ることができない。
 

カチンと音がして、松太郎は箸を置いた。
 


 
「どういうつもりだい」
 


 
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