コーヒー溺路線
残さずそそぐ
 

小野梓は珍しく眉間に皺を寄せてじっと何かを考えていた。視線は彩子と松太郎を交互に追いかけている。
 

彩子と松太郎の雰囲気は以前とさほど変わりはないように見えたが、梓からすれば不思議な程に二人が話すことがない。休憩の時間さえもだ。
 


 
「根岸部長、あの二人の間に何があったと思います?」
 

 
「えっ」
 

 
「ほら、富田さんと藤山さんですよ」
 


 
全てを知らされている根岸はどきりとした。どうやら梓は松太郎の見合いの話を知らないらしい。
部長である根岸に話を振るところが梓らしい。
 

さあ、私には分からないなと根岸が言うとそれでも梓は納得がいかない様子で更に眉間に皺を寄せた。
 


 
「根岸部長、そろそろお昼なので休憩してきますね」
 


 
梓は思い立つと直ぐ行動に移してしまう。そうしなければ気が済まない性格である。そんな性格を根岸は決して嫌いではなかった。
 

苦笑の末に浅い溜め息を吐き出すと、根岸はコンピュータで作成中の書類に視線を落とした。
これを終えてから今日の愛妻弁当を食べようと思った。
 


 
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