コーヒー溺路線
「ミカコ様」
「……」
「泣いておられるのですか」
よく考えてみればなかなか失礼な運転手だ。傷心した女性に対してストレートに泣いているのかだなんて、全くこの男は空気が読めない。
ああ、あの場面でどうにか笑うことができた。良かった。ミカコは車に揺られながら思った。
運転手の言葉は半分も頭には入らなかった。
運転手もそれ以上深くは話しかけてこなかったが、車内にかかる音楽をミカコの好きな曲にして少しだけ音量を上げた。
そんな心遣いにミカコは更に涙腺を刺激されたように感じる。
「一目惚れだったのかな」
「……」
ミカコはぽつりと呟いた。
運転手はいつもの安全運転で手慣れたハンドルをきる。
「本当に好きになる前で良かった……」
その声は運転手には届かなかった。