コーヒー溺路線
特別に急いでいるわけでもないので、彩子は階段をゆっくりを一段ずつ上がっている。もちろん七階のフロアにもいくつかの部署があり、その端くれに資料室があるのだ。
この会社の中には大量にある資料が上手くまとめて保管してある。全く素晴らしい設備である。
「二千五、二千四」
過去五年分と言われたので彩子は二千一年から二千五年までの資料を探さなければならない。探すとは言え、一寸の狂いなく五十音もアルファベットも数字も昇順に並べてあるので苦労はない。
あっさりとその資料を見つけた彩子は、大きくて厚いファイルを五冊抱えて企画発足部へ戻った。
フロアへ戻って直ぐに、窓際から二つ目のデスクに座る赤淵眼鏡の女性が彩子を呼んだ。
「資料室から戻って直ぐだというのにごめんなさいね、コーヒーのおかわりをお願いしたいの」
「はい、ただいま」
おかわりを頼まれると、彩子は途端に機嫌が良くなる。
なんだか自分のいれたコーヒーが認められたような気分になるからである。
どしりと粗雑にファイルをデスクに置くと、急いでその赤淵眼鏡の女性の元へ走る。コーヒーカップを受け取ると彩子は給湯室へ向かった。
「富田さん」
「はい」
彩子がコーヒーをいれようと給湯室へ入るとそこには松太郎がいた。どうやら松太郎は自分でコーヒーのおかわりを注いだらしい。
「おかわり嬉しそうだな」