コーヒー溺路線
嬉しそうに頷いた彩子はコーヒーを注ぎ始めた。松太郎はそんな彩子を眺めている。
「待って頂けたらおかわりお注ぎしましたのに」
「ああ勝手に触ってごめん、富田さんを待とうかなとも思ったんだけど私もコーヒーが好きだからな」
「そうなんですか、嬉しいです」
「うん、君の注ぐコーヒーは旨いな。豆も良いしいれ方も良いんだろうな」
「そんな風に言われたのは初めてです。豆が良いだなんて特に」
「私もコーヒーは豆から選ぶ。アメリカでもずっとそうして自分でいれていたよ」
松太郎がコーヒーの話をし始めると彩子は嬉しそうに聞いていた。しかし彩子はふと自分の持っているコーヒーがなみなみに入ったコーヒーカップを見ると、これはあの女性のおかわりだったと思い焦った。
「すみません、コーヒー出してきますっ」
「ああ、そうだ忘れていた」
零さないようにコーヒーカップを盆に乗せて早歩きする彩子を見て、松太郎は目を細めた。そうしてデスクに戻ったのである。