コーヒー溺路線
 

少し遅くなってしまったので彩子が謝りながらコーヒーを出すと、赤淵眼鏡の女性はいいのよ気にしないで、ありがとうと柔らかく微笑んだ。彩子はまた一層優しい気持ちになってデスクへ戻った。
 

先程給湯室にいた松太郎も隣りのデスクについてコンピュータのキーボードを叩き始めていた。
よし、頑張るぞと彩子も資料を見比べコンピュータ内のシートに入力し始める。
 

それから優に三時間は経ったであろう。
彩子はずっとコンピュータにかじりついて資料の数値を入力したり、備考を踏まえて頭を悩ませたりしていた。
二度程コーヒーのおかわりを頼まれた。赤淵眼鏡の彼女ではなく、また別の二人からだ。彩子は毎回嬉しそうに席を立ち、コーヒーを注いだ。
 

そうして仕事が一段落すると、部長の根岸からそろそろいい加減に昼食を取るようにと言われた。気付けば三時を過ぎていた。
 


 
「藤山さんはお弁当ですか?」
 


 
松太郎がコンピュータを一度落とすと彩子は隣りから聞いた。
 


 
「いや、今日はコンビニかな」
 

 
「一緒に買いに行きませんか?私、今日はお弁当を作り忘れてしまったので」
 

 
「もちろん」
 


 
そんな風に二人は席を立ち、部署の人々に行ってきますと告げるとエレベーターへと向かった。松太郎と彩子が立って並ぶと、二人の身長差があらわになる。その差は頭が一個半分くらいだ。
 


 
「富田さんはいつもコーヒー豆をどこで購入するんだい?」
 

 
「この会社の近くにコーヒー専門店があるんです。もし良かったら今度ご案内しますよ」
 


 
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