コーヒー溺路線
「本当に?嬉しいな。ああそうだ、もし良ければ今夜はどう?」
「今夜ですか?」
「今日は誕生日だろう、新入り同士コーヒーでも」
「コーヒー……」
松太郎から見ると、彩子は妙にぼんやりとして見えた。何となくその表情は気持ちを掴み取りにくいもので、少し狼狽した。
「ああ、ごめん。誕生日は恋人と過ごすものだよね」
「あ、違うんです」
申し訳なさそうに松太郎が謝ると彩子は更に申し訳なさそうにした。
彩子は彩子の手の平を松太郎に見せ、激しく左右に振っている。
「一緒にコーヒーを飲もうと誘って下さる男の人というのはなかなかいないので、嬉しいんです」
「そうなの?私は君のいれるコーヒーがとても好きだよ」
「ありがとう」
松太郎のこの言葉が、彩子の誕生日を祝う言葉よりも数十倍、数百倍も嬉しいと思わせるのはやはり彩子が根っからのコーヒー好きだからである。
そうして少しお互いが照れながらビルディングを出ると、やはり都心なだけはある。
コンビニエンスストアは目の前の交差点の角、横断歩道を渡った先にあった。