コーヒー溺路線
松太郎が家を出たことを確認するとあさひはリビングに戻った。
リビングでは先程のように愛里がソファに腰掛けている。おずおずとリビングに入ってきたあさひに愛里は困ったように笑った。
「お茶、すみませんでした」
「いいえ、大丈夫よ。それよりも」
愛里の言葉に耳を傾けながら、あさひはゆっくりとソファに腰を下ろした。
愛里は再び真剣な表情をしている。
「……」
「あさひちゃん、話を聞いていたんでしょう?」
「……」
松太郎と愛里が話している最中、あさひは扉の向こう側に立っていた。
あさひは二人が大切な話をしていたからリビングへ入ることができなかったのではなく、松太郎の告白にショックを受けたせいで動くことができなかったのだ。
「ごめんなさいね、聞かない方が貴女は幸せだった」
「……。仕方がないです。変えることができない事実ですから」
あさひはきっと今夜部屋でひとり泣くのだと、愛里は思った。
松太郎に想い人がいるということは予想がついていたというのに、あさひに知られる恐れを避けることができなかった。
「これでもう、私の失恋がはっきりしてしまいました」
泣きそうに顔を歪めながらあさひはリビングを出て行ってしまった。
愛里はあさひにかける言葉が見つからず、ただあさひが遠ざかってゆく足音だけを聞いた。