コーヒー溺路線
 

松太郎は玄関を出て家の前に寄せて駐車しておいた車に乗り込んだ。
 

愛里は純粋に喜んでくれたらしい松太郎の告白も、きっとあさひにとっては聞いてしまって相当のショックを受けたのだろうと思われる。
それは松太郎にも解っていた。
 

扉を開けた瞬間、松太郎を捉えたあさひのあの眼が悲しみに揺れていたのを松太郎自身が見過ごしはしなかった。
一番可哀相な方法で暴露をしてしまったと松太郎は後悔をしている。
 


 
「……」
 


 
松太郎は眉間に皺を寄せていた。
その表情とは裏腹にそのハンドルをきる手は安全運転そのものだった。
 

このまま彩子を迎えに行きたい。そんな衝動に駆られながら松太郎は自分の暮らすマンションを目指した。
 


 
「あれ」
 


 
松太郎の車が交差点を曲がった先の前方に、小野梓が見えた。
梓は一人で夜道を歩いていた。交差点はまだ人通りが多少はあるようだ。
松太郎は先回りをして梓の近くへ停車させた。
 


 
「小野さん」
 


 
松太郎は助手席側の窓を開け、身を乗り出して梓に声をかけた。
梓は驚いて立ち止まった。
 


 
「藤山さん、どうしたんですか?こんなところで」
 

 
「こっちの台詞です、真っ暗な道を女性が一人で歩くと危ないですよ。送りますから乗って下さい」
 

 
「すみません、それじゃあお願いします」
 


 
梓は仕事帰りのスーツ姿であまり高くないヒールを鳴らせながら、松太郎の車の後部座席へと乗り込んだ。
車へ乗り込んだ梓は目的の場所を指定すると浅く溜め息を吐いた。
そんな梓を不思議に思って松太郎は聞いた。車はゆっくりと走り出す。
 


 
「どうして助手席に乗らないんですか?」
 


 
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