コーヒー溺路線
松太郎の疑問に梓はキョトンとした。
「藤山さんは、女の子にとって男性の運転する車の助手席がどんな意味を持つのか、解ってないんですね」
やれやれといった感じで梓は呆れて肩を竦めてみせた。
松太郎は困ったように首を傾げている。
「とにかく、藤山さんが助手席に乗せるのは彩子ちゃんだけで良いということですっ」
「そ、そうなのか」
松太郎は梓の迫力にたじろぎながら、安全運転で車を走らせた。
「そういえば藤山さん、婚約の話はどうなったんですか?」
「えっ、どうしてそれを小野さんが知っているんですか」
「何を今更。部署にかかってきた藤山さん宛の電話に向かって、婚約はしないと怒鳴ったのは藤山さんじゃあないですか」
そんなことは皆知っていますよと梓は再び呆れたように溜め息を吐いた。
松太郎はそれに覚えがあったので小さくすみませんと謝っておいた。
「藤山さん。彩子ちゃんは教えてくれないんですけど、藤山さんは彩子ちゃんのことを好きなんでしょう」
松太郎は驚いてミラー越しに梓の視線を捉えた。余りのせがむような梓の眼にたじろぐ。
松太郎は焦燥感に駆られながらも、頭の中では冷静に彩子は何も言っていないのかと考えていた。
「以前、藤山さんが彩子ちゃんと行動しなくなってから、彩子ちゃんに藤山さんがいろいろな部署の女の子から告白されているみたいよって、かまをかけるつもりで言ってみたことがあるんです」
「……」