コーヒー溺路線
 

「おはようございます」
 


 
午前八時にもなっていない企画発足部のオフィス内にはまだ二、三人の社員しかいなかった。
それでも松太郎はいつもと変わらず挨拶をしてデスクに着いた。
 

出勤時間の午前八時半まで当分時間がある為か、ある社員はスポーツ新聞を広げていたり、またある社員は一生懸命に携帯電話のディスプレイを覗き込んだりしていた。
 


 
「おはようございます」
 


 
続いて入ってきたのは部長の根岸である。
社員は口々に挨拶をし、再びスポーツ新聞や携帯電話に視線を落とした。
 

根岸はこんなに早くから出勤しているのかと松太郎はぼんやりと思い、妙に関心しながら挨拶をした。
すると根岸はいつもはこの時間帯に出勤していない松太郎がいることに気が付いたのか、自分のデスクに着く前にこちらへやってきた。
 


 
「おはようございます、部長」
 

 
「おはよう。どうしたんだい、今日はまた一段と早いんだね」
 

 
「はい、少し早く起きてしまって」
 


 
そうかと呟いて根岸は満足そうに笑うと、そのまま歩いてデスクへ向かった。
午前八時になろうとしている。
だんだんと社員が増え始める時間だ。もちろん彩子も午前八時丁度に出勤する。
 


 
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