コーヒー溺路線
 

勤務を終えた後、彩子はいつものようにコーヒーショップへ行こうと思った。
 

定時の午後六時になると残業をする社員以外はデスクから離れる。
彩子は時々コーヒーショップではなく、梓や他の女性社員と休憩室でコーヒーを飲みながら世間話をすることがあった。
 


 
「彩子ちゃん、今日も少し話さない?」
 


 
梓が休憩室を指してにこりと微笑んだ。彩子は今日、コーヒーショップへ行こうと断固として決めていたので断ることにした。
 

決心を鈍らせない為に、彩子はやらんとすることを先送りにはすまいとした。
 


 
「なんだ、今日彩子ちゃんは不参加か」
 

 
「すみません、今日は駄目なんです」
 


 
眉を顰める梓に彩子は困ったように愛想笑いをしながら断った。
 


 
「そういえば、最近彼は来ないけど、須川君だったかしら。どうしたの?」
 

 
「はい、ちゃんと断ったんです」
 


 
彩子は俊平に付き纏われていたということを梓に話したことはなかったが、俊平の血走った眼と彩子の青褪めた顔で勘付いてはいたらしい。
 

彩子が大丈夫だと言って笑うと、心配そうな表情をしていた梓も安心したように微笑んだ。
 


 
「そう、断ったのね。大丈夫なら良かった」
 

 
「ありがとうございます。それじゃあ、そろそろ失礼します」
 

 
「うん、次はお喋りしましょうね」
 


 
彩子は梓や他の女性社員に向かって頭を下げ、部署を出た。
 


 
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