コーヒー溺路線
「なんとか一段落つきましたね」
「彩子ちゃんありがとう。人で賑わうとまではいかないけれど、一人ではやっぱり苦しいかもしれないな」
「寒くなるにつれてそうですね」
手伝った褒美にとマスターは、彩子にコーヒーを一杯ご馳走しようという。
また新たにマスターは湯を沸かし始める。彩子はカウンターのいつもの席にようやく着いた。
その時、扉が開いて店内に誰かが入ってくる気配を彩子は感じて振り向いた。
「あ、マスター。お客さんですよ」
「えっ」
彩子がテーブルに向き直ってマスターに告げると、湯を沸かしていたマスターは振り向いて声を上げた。
彩子とマスターの視線の先には顎に無精髭を生やした男がいた。マスターよりも年が上のように感じられる。
「やあ」
「どうしたんだ、こちらに来るとは珍しいな」
その無精髭の男はマスターの知人のようで、彩子は不思議そうにマスターと男の顔を見比べていた。
それに気が付いたマスターはくすりとおかしそうに笑って言った。
「ごめんよ彩子ちゃん。この男、実は俺の兄貴なんだ」
「お兄さんっ、そうだったんですか!」
彩子は驚いて大袈裟に口元を手で覆った。