コーヒー溺路線
「マスター」
ひとしきり話し終えた後に黙っていた彩子は突然マスターを見た。
マスターはもう既にコーヒーカップを洗い終えていて、カウンターの向こう側に椅子を持ち入りそれに座っていた。
「どうしたんだい、彩子ちゃん」
「あのね、私、マスターの恋の話が聞きたいです」
「えっ」
「私からの相談ばかりで、マスターからは何も聞いたことがないんだもの」
彩子は意地が悪そうな笑みを浮かべた。マスターは恥ずかしそうに口を渋って唸っている。
「マスター、教えて下さいよ」
「ううん……。好きな女性は確かにいたよ、学生時代やこの店を始めてからも」
マスターは照れ臭そうにしながらも話し始めた。彩子はそんなマスターの話を嬉しそうに聞いている。
「俺は結構突進するタイプらしくて、当たって砕けての繰り返しだったな」
「マスターが?とても意外」
「うん、今思えば学生時代にはかなりヤンチャをしてきたものだよ。だけど告白が成功したのは数える程だ」
「マスターは告白されなかったの?」
「いや、大学に通っていた頃はされたこともあったよ。だけどずっと好きな人がいたんだ」
「ずっと……?」