コーヒー溺路線
「ああ。ずっとだ。一途にその女の子を想っていたんだけど、その女の子にも好きな人がいてさ。よくあるパターンだろう」
マスターは肩を竦めて微笑んだ。それでもマスターは懐かしそうに話す。
彩子はコーヒーショップで本日二杯目のコーヒーを飲んでいる。
今度はマスターがいれたいつもの味のコーヒーだ。
「その女の子に好きな人がいると判った途端になんだか物凄く怖くなって、好きになったら直ぐに告白をしてきた俺が遠くから見ているだけになったんだ」
「……」
「きっとあれが本当の初恋だったんだろうと思うよ。それまでの好きというのは、きっと可愛いだとかスタイルが良いだとか、そういう理由で目で追っていたんだと思う」
彩子はいつからか真剣なまなざしでマスターを見ていた。
コーヒーの入ったマグカップは変わらず彩子の両手で覆われている。
「それからというものの、恋には奥手になったのかもしれないな」
「結局マスターはその人に告白をしたの?」
「いや、しなかった。怖くてできなかったんだ」
彩子は不満そうに唇を尖らせた。
そんな彩子を見てマスターはいよいよ困ったように笑った。