コーヒー溺路線
 

「マスターの好きになる女性って、一体どんな人なんだろう」
 

 
「え?」
 

 
「きっととても美人で大人びた女性なんだろうな」
 


 
彩子はくすりと笑った。
マスターは、間違いなく君だよと言ってしまいたかったが、それは絶対に言うまいと心に決めていた。
 

きっと自分が今彩子に告白をしようものなら、彩子は驚いて困惑するだろう。
それが目に見えて分かっているので、マスターはいつものように黙って彩子を見守る。
 


 
「ねえ、マスター」
 


 
彩子はマグカップに視線を落とした。直にコーヒーは飲み干すだろう。
 


 
「なんだい」
 

 
「松太郎さんは、今でもここへ来ていたりしますか?」
 


 
彩子はちらりとマスターを見上げた。
これが今日、コーヒーショップへ彩子が訪れた本当の理由だ。
 


 
「いや、前に一度来たことを話しただろう?それ以来は見ていないよ」
 

 
「そう……」
 


 
彩子は残念そうに俯いた。
 


 
「きっと彩子ちゃんに気を遣っているんだよ。鉢合わせをしたら気まずいだろうから」
 


 
マスターは慌てて彩子にそう言った。
彩子はそうかなあとぽつりと呟き、気持ちは沈んだままだ。
 


 
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