コーヒー溺路線
「彩子ちゃん、ほら」
「なあに、チョコレート?」
マスターが持っているのは面のブロックの凹凸が激しいベルギーチョコレートだ。
マスターはおもむろにそれを割り、小さな皿にいくつか乗せた。
「思い悩んだ時には甘い物だよ。俺は甘いチョコレートがとても好きだ」
「……。マスターって意外性がたっぷりあるわね」
彩子はくすりと笑った。
マスターは照れ臭そうにしてチョコレートを一粒口へ含んだ。
彩子もそれに倣ってチョコレートを食べてみる。
「甘い。美味しい……」
「そうだろう」
「ありがとう、マスター」
いつも迷惑をかけて、と彩子は付け足した。マスターは、彩子が自分に相談をしなくなったら逆に心配だとおどけてみせた。
「そうかもしれない」
「そうだよ、毎回何かある度に包み隠さず相談をするんだからな」
「ふふふ」
ひとしきり笑うと、彩子の目がとろんとしてきた。
「ねえ、マスター」
「なんだい」
「マスターにお願いがあるの」
マスターは不思議そうに首を傾げている。
彩子はにこりと微笑んだ。