コーヒー溺路線
「マスターにお願いがあるの」
そう言った彩子は鞄の中から二つの鍵を出した。マスターはそれを不思議そうに見ている。
「今日ね、お昼の休憩の時に合鍵を作ってきたんです」
そう言いながら彩子は自分が普段使用している古い方の鍵をキーホルダーから外した。
それからそのキーホルダーには新しく作った合鍵を付け替える。
もう一度鞄の中に手を入れて、彩子は淡い桃色のリボンを取り出した。
彩子は古い方の鍵にその桃色のリボンを結ぶ。
「マスターに、この鍵を預かって欲しいんです」
「鍵を?」
彩子は桃色のリボンがついた古い鍵をマスターへ手渡した。
マスターはすんなりと受け取って、彩子に視線を戻した。
「もしいつかここへ松太郎さんが来たら、この鍵を渡して伝えて欲しいんです」
「伝言かい?良いけど……。もし彼がここへ来なかったらどうするんだい」
心配そうにするマスターに彩子の頬が緩む。
「もし今後一度も来なかった時は、そういう運命だっただけ」
「……」
「良い?伝言を言うね」
彩子は自分の手元にある新しい鍵に視線を落とした。時折それを両手の中で遊ばせている。