コーヒー溺路線
それからというもの、松太郎は大量の仕事に追われながらも七夕の日を待った。
彩子が企画発足部でどのように過ごしているのかは全く解らない。
しかし彩子の周りは社長となった松太郎の噂で持ち切りだった。
少しだけ髪の伸びた梓は今日も無鉄砲だ。
いつものように定時過ぎの休憩室では梓や他の女性社員達が話している。
そこに彩子はいない。
「まさかあの藤山さんが社長子息だなんてねえ」
「でもよく考えてみれば品があるし、何よりこの部署へ来る前にはアメリカへいたんだもの」
「当然と言えば当然よね」
「でも良いなあ、彩子ちゃんは社長夫人になるかもしれないということでしょう」
「梓はもう知っていたの?」
ある一人が全く話に加わらない梓に問い掛けた。梓はコーヒーをチビチビと飲んでいる。
部署を出ようとする彩子に無理を言っていれてもらったコーヒーだ。やはり自分がいれるコーヒーよりも旨い。
「私は何も知らなかったわ。彩子ちゃんは知っていただろうけどね」
「凄く気になるわ、あの二人。付き合っている様子もないし、本当のところはどうなのかしら」
梓は余所を向いてしれっとしている。
興味がない訳ではない。
「付き合っていてもいなくても、あの二人は愛し合っているのよ。周りが口出しすることじゃないわ」
噂好きな女性社員達は不満そうに唇を尖らせていたが、梓は彩子と松太郎が幸せになる未来を思い描いて微笑んだ。