コーヒー溺路線
ポン、と音がした先にはエレベーターがこの階へと来ていた。後数メートルでエレベーターに乗るというところで、彩子はあっと声を漏らす。
「どうしたの?」
「すみません、私資料室にファイルを返しに行かなくちゃ。藤山さん、先に降りていて下さい」
「ああ、そういうことか。いいよ。それくらいついて行く」
「すみません、コーヒー、私が奢りますから」
彩子は申し訳なさそうに言うと、松太郎を階段へ促した。七階だから階段の方が早いのだと言うと松太郎は納得したように微笑んだ。
「ありがとうございます、ついて来て頂いちゃったりして」
「いや、気にしないで。女性を何事も一人で行かせるのは不安なんだ」
彩子が小さくありがとう、と呟くと階段を上り終えていて彩子は一人で資料室に入って行ってしまった。
やれやれ、一人で行かせるのは不安だと言ったばかりなのになと思いながら、松太郎は仕方無しに資料室の入口で彩子を待つことにした。
「確かこの辺りだったはずよね」
静かで薄暗い資料室の中に彩子の独り言が大きく響いた。
「あれ、彩子」
資料室にあるコンピュータの前にスーツの男が座っている。彩子は聞き覚えのあるその声びくりと肩を跳ね上がらせた。