コーヒー溺路線
この都心は今日、とても良い天気だ。
このまま夜になれば織り姫と彦星の逢瀬も叶うだろうと彩子は思った。太陽が西へ傾き赤くなった空を見上げている彩子の目の前に、一台の車が停車しその車の窓から松太郎が顔を覗かせた。
「どうぞ、乗って下さい」
「はい。お邪魔します」
そういえば今日は七夕ですね、そのコーヒーショップは何処ら辺にありますかなどと松太郎に話しかけられながら、彩子はただ助手席に座らされていた。良い車なのだろう。シートの座り心地が良く、振動も少ない。
彩子は少し睡魔に襲われていた。慣れない部署での仕事でやはり多少は疲労があるらしい。
「その角を右に曲がって、そう、そこです」
「ああ、洒落た店だ」
「コーヒー豆を安く売ってくれるんです。私はこれでも常連なので、良い豆があったら飲ませてくれるんですよ」
そう言って店を見つめる彩子はまたどことなく生き生きとして見える。松太郎が歩行者などの邪魔にならないように駐車すると、彩子は車から降りた。
「今晩は、マスター」
「今晩は」