コーヒー溺路線
「ああ、彩子ちゃん。おや、ついに新しいボーイフレンドか?」
「違います!今日から同じ部署で働くことになった藤山さんです」
「初めまして、藤山です」
「そうか、こんな小さな店に来てくれたということは君もコーヒーが好きな男なのかな」
「はい、それはもう」
もうコーヒー依存症という程ですと答えて、松太郎は店の中を見回した。
全体的に茶色な印象が強いのはコーヒー豆がたくさんあるからなのだろう。まずはカウンターがあり、洒落た足の長めな椅子が五つ備え付けてある。十五畳程の広さだろうか、ほとんどはコーヒー豆が種類別に置いてあり、コーヒーを飲むスペースはカウンターとカウンターの向かいの隅にある小さなテーブルとチェアの二セットだけだ。
「良い匂いがする」
松太郎はぽつりとそう言うと、もう早々とカウンターに腰を掛けマスターと呼ばれる男性と話し込む彩子の隣りに腰を掛けた。
マスターと呼ばれる男性は三十代後半であろう風貌で渋い顔をしている。
彩子とは一回りしか年が違わないが、なんだか親子のようというか兄弟のようと見えるのは彩子がそのように慕っているからだろう。