コーヒー溺路線
 

彩子は少し戸惑うように目をきょろきょろとさせていた。
そんな彩子を見ながら佐山は彩子のいれる旨いコーヒーが飲めなくなるのか、とそんなことを思っていた。
 


 
「分かりました。いつからですか?」
 

 
「ああ、一週間後だ」
 


 
この会話が三日前のことなのだから、実際には彩子はもう後四日しかこの慣れ親しんだ部署にはいられない。
 

彩子はいつもと同じようにコーヒーをいれながら感慨にふけっていた。
しかし後四日だと言っている間に人事異動初日というものはすぐに来てしまった。
 

彩子は緊張していた。
新しい部署は一体どのようなところなのだろうか。
不安ばかりが募っている。
 


 
「よし」
 


 
先程彩子はトイレで身だしなみは整えた。
お気に入りのタイトスカートはあまり短くし過ぎないように、そう自分に言い聞かせてリップクリームを薄くも厚くもない唇へ塗った。
 


 
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