コーヒー溺路線
靖彦はなかなか仕事のできる人間らしかった。彩子が三か月かけてもらう仕事を靖彦は一か月程でこなしていた。それに比例して靖彦のプライドは高いものだった。
いつからか二人の間に優劣な関係が出来上がっていたことは言うまでもない。
「今日家に来いよ」
「あ、うん」
強引に誘われては彩子は仕事で疲れた体で家事をさせられた。戸惑いを感じながらも彩子はきちんとこなす。惚れた弱みなるものであった。
そんな毎日でも彩子は合間を見つけてはコーヒーショップに行っている。マスターとはもうとても仲良くなった。
「彩子、結婚しようか」
そろそろ、というニュアンスを込めて靖彦が言った。彩子の答えはまるで聞かずとも決まっているかのように、靖彦は勝ち誇った顔をして言うのだ。
一方、彩子はプロポーズをされたこと自体が嬉しくて、もちろんと答える。親には若気の至りと言われたがとりあえず籍を入れることを果たした。
「靖彦、結婚式したいよ」
「まあ挙式はもう少し待てって」
「そんな……」
だけど、靖彦は挙式をしようとしなかった。彩子は挙式もしないまま靖彦の部屋へ転がり込むことになる。