コーヒー溺路線
 

コーヒーの入ったマグカップが彩子の目の前に出された。彩子の大好きなコーヒーの香りが鼻をくすぐる。
 


 
「嫌なことがあったらいつでも来るんだぞ」
 

 
「はい、そうします」
 

 
「彩子ちゃんはいつもぎりぎりまで我慢して来るんだものな、参るよ」
 

 
「ふふ、確かにそうです」
 


 
彩子が大学の時に付き合っていた恋人と大喧嘩をした時も、ストーカーの被害に遭った時も彩子が相談をした相手はマスターだけだった。
 

マスターは嫌な顔を一つもせず、彩子の力になった。支えてくれた、助けてくれた。
 


 
「まあ、先決は話す機会を作ることだな」
 

 
「うん、頑張ってみる」
 


 
思えば彩子が結婚を決めた時、一番最初に報告をした相手もマスターだ。彩子が結婚をすると言った時、マスターはそうか、幸せになれと呟くといつもより少し苦めのコーヒーをいれてくれた。
 


 
「それじゃあ、マスター。また来ます」
 

 
「ああ、気をつけて」
 


 
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