コーヒー溺路線
 

彩子がコーヒーショップから出ると、彩子の携帯電話が振動し始めた。仕事中と、仕事が終了し家に着くまではマナーモードに設定してある。
 

折り畳み式の携帯電話を開くと、画面に靖彦という文字が表示されていた。靖彦からの着信だ。
 


 
「もしもし、仕事終わったの?」
 

 
「ああ、彩子。今終わったからこれからプリンでも買って帰るよ」
 

 
「プリン?プリンが食べたいの?」
 


 
珍しく甘い物が特別に好きではない靖彦がプリンを買って帰ると言うので、彩子はくすりと笑った。電話越しにううんと唸る靖彦の恥ずかしそうな表情が伺えた。
 


 
「お前が食べるかなと思って」
 

 
「そうなの、嬉しい」
 

 
「いや、まあ、うん。それじゃあ」
 

 
「うん」
 


 
靖彦が大した用事ではないのに電話をしてくれるということが、彩子はとにかく嬉しかった。
電子メールを利用すれば良いことなのに、である。
 

彩子は靖彦からの土産のプリンを楽しみにタクシーを掴まえた。帰る頃にはもう辺りが暗い時間帯なので、靖彦にはタクシーに乗るようにと言われている。
 


 
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