コーヒー溺路線
「それじゃあマスター。また来ます」
「ああ、あまり思い詰めないようにな」
力無く微笑んだ彩子はありがとうと呟くと淡い桃色の傘を手にしてコーヒーショップを出た。
この傘は彩子のお気に入りの傘だ。
柄の部分は綺麗な明るい灰色である。淡い桃色とよく合う。だから大切に使っている。
「彩子」
コーヒーショップを出たところで傘を開こうとしている彩子を呼ぶ声がした。
振り向くと靖彦が立ってこちらを見ていた。
「靖彦、どうしたの」
「お前こそ、こんな時間に」
「そうね、ごめんなさい」
久しぶりに見た靖彦の顔に、彩子はなんだか酷く泣きそうになった。ああ、やはりこの男性を好きになって結婚をしたのだと自覚した。
「靖彦こそどうしたの、こんな夜遅くに」
「彩子」
「こんなところで会うとは思わなかった」
「彩子っ」
聞く耳を持たない彩子に痺れを切らし、靖彦は困ったように彩子の肩を掴んだ。