コーヒー溺路線
 

絶対に泣かない、泣きたくない。
彩子はそう思った。
 

コーヒーショップから靖彦の部屋まで走った。どうして良いのか判らなくなり、とにかく傘も指すのを忘れて走ったためにずぶ濡れになったのでシャワールームへ駆け込んだ。
 


 
「はあっ」
 


 
泣かない。もう一度強く思い直し、荒く息を吐くと服を無茶に脱ぎ捨て裸になった。
 

もうここには居られない。
苦しくて彩子自身が何か得体の知れないものに押し潰されてしまいそうだからである。
 

早く引っ越し先を決めなくてはと思った。
 

シャワーを浴び、湿気でべたべたした体は綺麗になり火照っている。バスタオルを引っ掴み体を拭いて服を着た。
 


 
「嫌だな」
 


 
ぽろりと本音が零れた。
この部屋から出たら最後、靖彦はここでまた違う女性と過ごすのだろうか。
想像すると嫌で嫌で仕方がなかった。
 


 
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