コーヒー溺路線
 

「まあ、無理をしないようにね」
 

 
「ありがとう。私、イイ女になります」
 

 
「イイ女?」
 

 
「ええ」
 


 
彩子は怪しげににたりと笑った。
そんな彩子にマスターはどきりとした。
 


 
「イイ女になって、あんな男はこっちから願い下げだって言えるようなイイ男を捕まえます」
 

 
「ああ」
 


 
それが良い、とマスターは思った。とにかく今直ぐにとは言わないから、彩子がきちんと前を向いて歩けるようにと、マスターは今日も。
 


 
「それじゃあマスター、また来ます」
 

 
「おやすみ」
 

 
「おやすみなさい」
 


 
今日は雨が降っていないので傘は持っていない。当分雨の日には憂鬱な気分になるだろうけど、きっと大丈夫だ。彩子はできる限り顔を上げて歩いた。
 

彩子が新しく住み始めたマンションはまだ家具が揃っていない。
休日には買い物に行こう、そしていつものようにコーヒーをいれよう。彩子は風を仰いだ。
 


 
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