コーヒー溺路線
「お帰りなさいませ」
カフェから松太郎が出るともう一度送迎の車に乗り込んだ。
「ああ。さあ社へ向かおう」
「お楽しみになりましたか」
「もちろん。とてもだ」
また近々あのカフェへ行こうと松太郎は思いながら、とても良い気分で車に揺られていた。
見慣れた風景の中に松太郎の見たことがない、高いビルディングがいくつも建っていた。
日本もビルディングが好きなのだろうかと松太郎は妙に納得し、そうしているとこれからまた働くことになる我が社を見つけた。
「お疲れ様でした」
「また頼むよ」
送迎の車は目的地である大手企業会社である藤山商事に到着すると、松太郎を降ろして社内の地下車庫へと向かったらしい。
「父さん、今帰ったよ」
松太郎はエレベーターでビルディングの最上階に上がり、この階をワンフロアで仕切っている父親の元へ行った。
「松太郎、遅かったな」
「久しぶりの日本だ。一杯だけコーヒーを飲んできたよ」
「そうか」
松太郎の父親はこの社の社長である。
もちろん次期社長は松太郎が第一候補だ。
それはとても厳格な男で、アメリカで働いて帰ってきた息子にねぎらいの言葉もかけるはずはない。
もちろんそういったことは松太郎も最早気にはしない。
これも幼い頃からの慣れというものだ。