コーヒー溺路線
ぼんやりとテレビを見つめていると、気付いたときにはもう着替えて出社しなければならない時間になっていた。
テレビを消し、疾うに空になったマグカップを流し台に置く。着ていた服を無理やり籠へ脱ぎ捨てスーツに腕を通した。
彩子は鞄を引っ掴むとどたばたと慌てて玄関の扉を開けて外へ飛び出した。
十メートル程走ると忘れものに気付いて道を引き返した。扉の鍵を閉めることを忘れていた。
しっかり閉めたことを確認すると駅まで走り電車に飛び乗った。
そこからまた更に社まで歩かねばならない。彩子は溜め息を吐いた。
八時半までに出勤すれば良いのだが、八時に間に合うように出勤するのは彩子のこだわりだ。
社に着いたのは八時になった瞬間だった。
「よし」
彩子は時間があることを確認すると、トイレで身だしなみは整えた。
お気に入りのタイトスカートはあまり短くし過ぎないように、そう自分に言い聞かせてリップクリームを薄くも厚くもない唇へ塗った。
トイレから出て鞄の中を確認した。粉状にしたコーヒーが瓶に入ったものと、前の部署で愛用していたマグカップも入っている。これは昨晩より用意しておいた。
彩子は扉の前に立ち、扉に取り付けられた小さな鉄板に「企画発足部」と記されていることを確認した。
「おはようございます。情報管理部から移動してきました富田です」
よろしくお願いします、と大きな声で言い頭を下げた。