コーヒー溺路線
「おっ、小野さん」
「藤山さん、どうしました?」
「いや、富田さんが」
松太郎と梓との間に挟まれた彩子は最早ぐったりとしていた。居酒屋に来て一時間が経った頃だ。
この居酒屋には団体で入ると奥の座敷に通された。座布団の上に少し足を崩して彩子は壁にもたれかかっている。
「それが富田さん、直ぐに酔ってしまったのよ」
「そうですか……」
明らかに梓がビールのジョッキを持って彩子の口元に押し当てていた気がするが、松太郎はあえて口に出さなかった。
「富田さん、大丈夫?」
「あ、はい。すみません……」
「無理をしないで。水は飲めるかな、それとも外に出て風にでも当たるかい」
「出来れば、外に」
主役である自分が彩子と店の外へ出るというのはなんだか気が退けたが、歩くことがままならない彩子をこのままアルコールの匂いが充満している場所に放っておくことはできない。
松太郎は盛り上がる梓ではなく大人しく焼酎を飲んでいる根岸に外へ出る旨を伝えて彩子を立たせた。