コーヒー溺路線
「富田さんが酔ってしまってどうにもならない様子なので、申し訳ありませんが失礼しようと思います」
店内にいる根岸に松太郎がそう告げると、どうやら騒いでいる梓にも聞こえたらしい。
えーっと言うブーイングが聞こえた。
すみません、富田さんが外に一人でいるのでと松太郎はそそくさと出た。
酔ってしまい、普段の倍は質の悪くなった梓にもう部長は優しいんだからと責められ、根岸は苦笑しながら松太郎の後ろ姿を見送った。
「富田さん、ごめんね。大丈夫かい」
正直なところ、数分の間とはいえ彩子を一人にして夜の道端に置いておくのは松太郎も気が気ではなかった。
松太郎が急いで店を出ると俯いたままぼうっとしている彩子が目に入り、なんだか安心した。
「ごめんね、そろそろ行こう。送るよ」
「大丈夫です……」
「大丈夫じゃあないよ、そんなにフラフラしてさ。その状態で一人で帰すだなんて私が不安だ、心配だよ」
「……」
強情に首を横に振る彩子だったが、諦めたのだろう。だんだんと首を振る力も弱くなり黙って俯いたままとなっていた。
歩くよと松太郎が声をかけると、はいと蚊の鳴くような小さい声で彩子は呟き、松太郎のされるがままとなった。