コーヒー溺路線
「今日は歓迎会があるから酒を飲むと思って車がないんだ。タクシーを呼ぶからタクシーが来るまで頑張って立つんだよ」
「はい」
先程からずっと松太郎は彩子の腕を引いて歩いている。彩子は足元の覚束ない状態で歩くこともままならない。
店を出たときはあれ程流暢に話していたというのに、いつの間にこんなに酔ってしまったのだろう。
ぺたぺたと足を引き摺るようにして歩く彩子の手を引く自分が、まるで保護者のようだと思えて松太郎はなんだかおかしくなった。
「あ、藤山と言います。タクシーを一台回して頂きたいのですが」
タクシー会社に松太郎が電話をかけている最中も彩子はずっとフラフラと揺れていた。
「近くにいるみたいだ。もう少しで座れるから頑張って」
「すみません……」
「うん、謝らなくて良いから帰ったら落ち着くまでは動き回らないことだよ」
「……」
「分かった?」
黙っている彩子に松太郎は念を押し、彩子は呟いたまま頷いた。
「藤山さんですか」
「ああそうです、すみません」
「どうぞ、乗って下さい」
「ほら、富田さん乗って」
タクシーの運転手はなかなか気前の良い、愛想の良い人らしかった。
松太郎は安心して彩子を乗せ、自分もタクシーへ乗り込んだ。