コーヒー溺路線
 

「それじゃあ一時間ほどしたらマンションまで迎えに行きますね」
 


 
松太郎はそう言うと電話を切った。
彩子は通話の終わった携帯電話を耳から離し、両手でそれを掴んだままその場に座り込んだ。
 

あと一時間もすれば松太郎は彩子の住むこのマンションまで車で迎えに来ると言う。どうしよう、と彩子は速くなったままの鼓動を抑えられないでいた。
 

成り行きとはいえ松太郎と食事をすることになってしまった。
何を着よう、シャワーを浴びなければ、コーヒーを悠長に飲んでいる場合ではないと一気に眠気も覚め、彩子はバスルームへ飛び込んだ。
 


 
「あっ、着替え」
 


 
一度飛び込んだバスルームから、着替えの洋服を出し忘れた彩子はまたそこから飛び出してクローゼットへ直進した。
 

会社ではない外で、私服で男性に会うというのはいつ振りだろう、彩子は心地良い鼓動の速さに自分が舞い上がっていることに気付いていた。
 


 
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