コーヒー溺路線
彩子が松太郎の声に反応して顔を上げると目の前には爽やかな松太郎の笑顔が溢れた。
彩子はまた、どきりとした。
嫌だ、この感覚は、これ以上は駄目だ。そう思う反面、松太郎が眩しい、このまま流されてしまえばいいと思っている。
彩子は再び口を紡いだ。
「それじゃあ改めて。彩子さん」
そう名前を呼ばれて、彩子は泣き出しそうな気持ちを抑え込むように口を紡いだまま松太郎を見た。
松太郎は困ったように微笑を浮かべている。
「食事をしようと言ったのは建て前で。デートに誘っても良いですか」
彩子は胸の奥がきゅうっと締め付けられたような感覚に震えた。
松太郎は黙ったまま自分を見つめる彩子に戸惑いながらも笑顔を絶やさず、彩子の手を引いて駐車場まで歩いた。
「さあ、乗って」
車の鍵を開け、松太郎は彩子に助手席へ座るよう促した。彩子は早鐘を打つ心臓に収まれ、収まれとばかりにぎゅうと胸の辺りの服を右手で掴んだ。
松太郎は運転席側まで歩き、行きと同様に車へ乗り込んだ。バタンと車体の扉が閉まり、彩子の体を揺らした。