コーヒー溺路線
小さな彩子が、更に小さく見えた瞬間だった。やりきれない沈黙が続く。
珍しく松太郎の眉間に皺が寄る。
いい加減に車を出さなければまずいと思いながら、松太郎は彩子を自分の腕の中に閉じ込めた。
「っ!?」
「ごめん、ごめん」
何度もそう呟きながら松太郎は彩子を抱き締める腕の力を弱くすることはしなかった。
ダイレクトに伝わる松太郎の体温、かすかなコーヒーの匂い。
ああどうしよう、眩暈がしそうだ。
「藤山さん、外から見えちゃいます…」
「ああ、本当だ、済まない」
衝動に駆られて抱き締めた彩子に回した腕を名残惜しげに松太郎は解く。松太郎はなんだか罰が悪くて彩子を見ることができないまま、車にエンジンをかけた。
「とりあえず車を出すね」
「はい」
彩子が小さく呟くのが解った。
恥ずかしい。彩子は俯いた。
恥ずかしくて顔を上げることができない。男性に抱き締められるのは靖彦と二人で仲睦まじく暮らしていた時以来だろうか。
「……」
何とも表現しがたい雰囲気のまま、松太郎はどこへ行こうかと悩みながら車のハンドルをきった。