コーヒー溺路線
流されてしまえ。
君は俺に流されてしまえば良い。
松太郎は悔しくなった。
なんだか自分が彩子よりも体がでかいだけの木偶の坊のような気がしてきたからだ。
どうやら彩子の方が一枚上手らしい。
「松太郎、さん」
「うん」
「今日から、恋人になるんですよね」
「ああ」
「……嬉しい」
彩子が再び松太郎の体に擦り寄った。
松太郎は胸が締め付けられる感覚に心地良さを覚えた。
「どうして海に来たの?」
松太郎の肩越しに見える青い海と空の景色が不思議に思えて、彩子は問うた。
それは、と松太郎は唸っている。
「それは、何」
「運転をしていると……抱き締めることができないだろうっ」
少し怒ったような、焦ったような松太郎の声色に彩子はふふふと笑った。
「いいのかい、年上のおじさんで」
「おじさんだなんて。三つ年が上なだけでしょう」
「そう、か」
流されてしまえばいい。