コーヒー溺路線
松太郎はアメリカから日本へ帰国し、実家ではなくマンションのワンルームに一人暮らしをすることにしていた。そこから車や電車を利用して通勤しようと決めたのは日本に帰国することが決定した時からだった。
車を地下車庫へ入れると松太郎は六階の企画発足部のフロアへ向かった。この社にあるエレベーターはガラス張りで下の階のフロアが見える。高所恐怖症の人間は使用できないだろう。
「おはようございます」
「おはようございます……」
エレベーターが六階に到着し、松太郎が挨拶をするといくらか人の声が返ってきた。松太郎の姿を初めて見る者は長身で品のある彼を驚いた顔で見た。
「今日からこちらの部署でお世話になります、藤山です。よろしくお願いします」
「ああ、部長の言っていた……よろしくお願いします」
あちらこちらから口々によろしくお願いしますという言葉が飛び交う。雰囲気の良い部署だと松太郎は思った。
「根岸部長、二名揃いましたよ」
「ありがとう、皆聞いてくれ。さあ藤山君、富田さんこちらに」
根岸に呼ばれ、松太郎が前に出るとその隣りに小さな女性が並んだ。松太郎はちらりと横を見下ろすと、姿勢の正しい髪の長く綺麗な女性だと思った。