コーヒー溺路線
それからどれくらい経ったか、彩子と靖彦が全く話さなくなり目も合わさなくなった。
早くもこの二人は離婚したのかもしれないと俊平は思った。
チャンスだと思った。
彩子に近付く絶好の機会が巡ってきたのだと俊平は思った。
「あの、一緒に帰りませんか」
俊平が言うと彩子は酷く驚いた。
富田さんと呼んでも良いのか、林さんと呼ばなければならないのか、俊平は迷った末に彩子の目の前に立ちはだかり話し掛けた。
「須川さん。ごめんなさい、急いでいるので」
勇気を出して話し掛けたが、俊平は簡単に受け流されてしまった。
それを俊平は覚悟していたかのように、彩子の前では努めて毅然とした態度でいるようにした。
それから数ヶ月、俊平が彩子に話し掛けられないまま月日は流れ、ある日、定時になる寸前に彩子が部署の皆の前に立った。
そこで彩子は企画発足部に移動することになった事実を述べたのだ。
俊平の彩子への想いは叶わぬ想いなのだと思い知らされた瞬間だった。