コーヒー溺路線
「……」
俊平は切れてしまいそうな程唇を強く噛んだ。
視線の先には企画発足部に移動した彩子が、見知らぬ男と親しげに歩いている姿がある。
その男は誰だ。
俊平は余りの嫉妬に発狂しそうだ。
もちろんその男は松太郎である。
「松太郎さん。家でご飯食べて行きます?」
「本当かい、嬉しいな。ぜひ彩子の手料理が食べたいよ」
ふふふと彩子は恥ずかしそうに笑った。
松太郎は彩子の肩を抱いて自分の車の助手席へ促した。その行為に彩子は慣れた様子で、小さくありがとうと呟くと松太郎の車へ乗り込んだ。
「何を作りましょうか。松太郎さんは何が食べたいですか?」
「ううん。スタンダードにハンバーグなんてどうだろう」
「それじゃあそうしましょう。材料を買う為にお店に寄り道をしても良いですか?」
「もちろんだ」
それから二人は、彩子の住むマンションの付近にあるスーパーマーケットへ行った。彩子はよくここで買い物をするのだと言う。
「挽き肉と玉葱と、それから」
買い物籠を抱えてそれに品物を入れていく彩子の後ろ姿を松太郎はただ見ていた。
なんだか新婚の夫婦のようだと思うと嬉しくなった。少し顔がにやけた自分が恥ずかしい。