コーヒー溺路線
「できましたよ」
彩子が盆にハンバーグの乗った皿を乗せて松太郎に声をかけたのは、三十分ほど経ってからだった。
松太郎は肩をぴくりと動かして慌ててありがとうと言う。この三十分自分は全くテレビを見ていなかったのだなと、松太郎は恥ずかしくなった。
つまりは緊張していたのだ。
「旨そうだ」
「どうぞ。召し上がって下さい」
「頂きます」
いつものように合掌をして頭を律義に下げる。二人で食事をするときは毎回そうすることが暗黙の了解になっていた。
松太郎はケチャップを、彩子は和風ドレッシングをかけた。
「ううん、旨い」
松太郎が実年齢よりは幼く見える笑顔で唸る。それを見て彩子は再びくすりと笑った。
「どうしたんだい」
「いえ、何と言うか松太郎さんがケチャップをかけるだなんて意外です」
「そう?子どもの頃からハンバーグはケチャップで食べるのが好きなんだ」
「松太郎さんの子ども時代なんて予想がつきませんよ」
「そうか、そうだなあ」
彩子が口元に手をあてて笑っている。
なんとも微笑ましい光景だ。
松太郎は恥ずかしそうに首の辺りを掻いて、再びハンバーグを口へ運んだ。
「たくさん食べて下さいね」
「ありがとう」
そうしてやっと彩子も自分のハンバーグを食べ始めた。