コーヒー溺路線
「俊平、お前はまだ富田のことを見ているのかよ」
「和人先輩」
ようやっと帰路についた俊平を呼び止めたのは、俊平の一学年上の先輩である高井和人だった。
和人は俊平と同じく情報管理部に勤務している。
「どうせまだ富田のことを考えていたんだろう。フラフラしやがって見ていられないよ」
「すみません」
とても世話焼きな和人のことを俊平は決して嫌いではなかった。
気さくに話し掛けてくれるものだから、簡単に心を許してしまいこれまでも沢山の相談をしてきた。
もちろん一年以上も前から彩子のことを見つめていることもだ。
誰にも知られないようにしていたのに、和人からすれば俊平は解りやすいことこの上ないというのだ。
「だって一目惚れだったんです」
「……」
「もちろん林靖彦と彼女が結婚をしたと聞いた時は気が狂いそうでしたよ」
俊平は自嘲気味に笑った。
そんな俊平を和人は黙って見ている。
「俺は彼女と全くと言っていい程話したことがないし、彼女の眼中にないんです」
最近では移動先の部署で彼女はまた良い人を見つけたようで、とそこまで言うと俊平は自分が酷く惨めに思えて黙り込んだ。
「お前がそんな風だからだろう」
一転し、和人の厳しく真面目な声が響く。
おもむろに俊平が顔を上げた。
「もっと努力をしろよ。そういう対象に見られたいならもっとアピールをしろ。お前はまだ何一つ努力をしていない」
甘えるなと和人は言い捨てて俊平の前から離れた。俊平は当分そこから動くこともできずにいた。