Pandora Crown

「…………。夢か…」

 気が付くとベッドの上。枕は涙でぐっしょり濡れている。

「優矢ッ!いつまで寝てるの?!今日始業式でしょ!!」

 ノックも無しにずかずか部屋に入ってきたのは優矢の母だ。
 布団を無理やり剥ぎ取ると,すかさず母の平手が飛ぶ。

「痛ってぇぇぇぇ!!!」

 家中に悲鳴が響く。更に部屋の窓も母が開けた為,外にまで優矢の声が響いてしまった。外からはクスクスと笑い声がする。
 優矢もこれには我慢できず,激しく反論する。

「てんめぇ,何しやがる!!」

 つい母に向かって喧嘩口調で言ってしまった事に気付くと,慌てて自分の口を塞ぐ。

「……皿洗い当番,今週の分交代して。分かった?」

「………はい」

 母は怪しげに微笑んで,ゆっくり部屋を出て行った。


「何なんだ…ったく」

 はぁ,と大きくため息をつく。

 ベッドから出ようとした瞬間,強い吐き気と頭痛に襲われた。
 どんどん息が荒くなり,仕舞いには床に倒れこんでしまったのだ。

「っ!!!はぁ,はぁ……い,いてぇっ…」 
 

 ――― や…

 ―――ゆう,や……


 幻聴まで聴こえるなんて,と優矢は小さく呟く。徐々に意識が遠のいていく。 
 こんな症状は初めてだ。薬物を吸ったわけでもないし,夜更かしもしていない。
 
「う…るせ…ぇな,幻,聴ごと…きに,ブッ倒れてたまるかよ…っ!」

 立とうとしても,身体が立つことを拒む。しかし優矢はお構いなしに立つ。
 自力で立てたものの,未だ身体はいう事を利かない。

 刹那。

 目が眩むほどの光が優矢を包んだ。



 光が消えた時には,先程の症状はすっかり治まっていた。
 優矢は自分の手のひらを見つめ,ゆっくりと部屋を後にした。



 ――時間が,無いのに…

 ――また邪魔をするというのか

 
 ――ヴェノール!!



 
 不気味な声が名も無い空間で嫌に響いた。
 
 
 刻一刻と破滅の道を歩んでいるとも知らずに

 この少年が旅することになろうとは……
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