妖怪外伝百鬼夜行
肆 烏と柚子
「……烏丸先生、私……見ちゃったんです」

放課後、話があると呼び出された烏丸は生徒からこの言葉を受け、焦っていた。

「先生の背中に、黒い羽が生えてきたのを見たんです」

「宮川……」

生徒の名前は宮川千夜。烏丸が担任のクラスの生徒で、陽とは特に仲の良いいたって普通の女生徒。だが、秘密を知られた。

「……先生は、なんですか?」

「それは……」

問い詰められ、烏丸は答えに窮する。烏天狗であることは誰に明かしてはならない。だが答えに窮した烏丸に思いがけない言葉が出てきた。

「先生、私と取引しませんか?」

「んっ?」

女生徒から出るとは思わない言葉が出てきた。真剣な目でこちらを見つめる千夜。
彼女は本気だ。

「私のお願いを聞いてくれたら、先生の秘密は誰にも言いません。絶対に」

変換すると、秘密をばらされたくなければ言う事を聞けという脅しにも取れる。
烏丸はぐっと息をのみ込む。

「お願いって、なんだ?」

「この学校にある七不思議の調査、先生も一緒に協力して下さい」

「はぁ?」

千夜の口から出たオカルトチックな言葉に烏丸は眉を寄せる。
だが、彼女はあまりにも真剣な表情で見つめ、烏丸の手をとり、懇願した。

「私、七不思議を解き明かしたいんです!」

どうしてそこまで執着するのかは分からない。
だがこんなことで、秘密が守られるというのであれば……そう信じ、少し考え、烏丸はうなずいた。

交換条件として引き受けた七不思議の調査。後になって烏丸は後悔することになる。
引き受けなければよかったのではないか。断ればよかったのではないか。
何度もそう思い、烏丸の中に後味の悪い感覚を残すできごとがこれから起こる。

誰の心にも消えない傷を残すできごとが、始まった。
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