渚
―――現在
「5年前も…『ごめん』って言ったな」
「…そうだったわね」
「…いつ?」
「えっ?」
「結婚するの」
「あぁ…来月」
早いな
俺は口を動かすだけで、声が出なかった
それが、理由?
会いに来た理由?
わざわざそんなことを言うために?
俺を、傷つけるために?
違うだろ
違う…
「幸せに」
でも、言ったことは違う
思ったことは、言えなかった
澪は、少し微笑んで「じゃああたし…そろそろ行かなきゃ」
「おぅ」
「ばいばい…」
澪はそう言うと、立ち上がり、俺に背を向け、歩いていく
長い髪が風に揺れる
澪
そう言って、引き止めることも出来た
澪は、引き止めてほしいんじゃないか、と一瞬頭をよぎった
でも、引き止めなかったのは、
俺らが年を取ったってことなのかな
昔だったら、欲しいものは欲求のまま、手にいれに行ったけれど
今は…
きっと俺たち、5年前が1番いい時だったんだよ
澪の背中は、もう見えなくなっていた
―――End