愛していたのに
寝台前に立つ男はこちらに背中を向けている。
訪問者に気づいてないわけがなく、ただ単に男は。
「こいつはね、君の名前を図々しくも口にした奴だ。ふざけてるよね、君の名前を呼んでいいのは俺だけなのに」
訪問者がいると知りながら作業に没頭していた。
右手にメス。
ぷつりと寝台で横になるモノの眼球に突き刺し、かき混ぜた。
「憎いな、まったく。喉を切り裂いたぐらいで死にやがって。もうこうして死体をいじることしかできないよ」
メスでかき混ぜた眼球を放置し、ようやっと男はこちらを向いた。
にこやかな青年。
虚ろな眼差しながらも、好青年そうな笑顔であった。
血まみれでなければ、異常者と名の付くこともなかっただろうに。